私は、42歳のサラリーマン。20代の頃から、友人たちに「お前、ちょっとキてるな」と冗談めかして言われていた生え際の後退が、40代に入ってからは冗談では済まされないレベルにまで進行していた。毎朝、鏡を見るたびに後退していく前線に、私の自信も一緒に後退していく。市販の育毛トニックを試し、ネットで評判のシャンプーを使ってみたが、気休めにしかならなかった。AGAクリニックの存在は知っていたが、どこか恥ずかしい、大げさだという気持ちがあり、ドアを叩く勇気が持てずにいた。転機が訪れたのは、娘の一言だった。小学校の娘が、私の似顔絵を描いてくれたのだ。そこには、満面の笑みの私と妻、そして娘が描かれていた。しかし、私の頭は、実際よりもかなり広く、寂しい感じにデフォルメされていたのだ。悪気がないのは分かっている。子供の素直な視線が、現実を容赦なく突きつけてきた。その絵を見て、私は「このままじゃいけない」と、腹の底から思った。翌日、私はインターネットで必死にクリニックを探し、カウンセリングの予約を入れた。医師は、私の頭皮を診察し、典型的なAGAであること、そして内服薬と、より効果を求めるならミノキシジル注射という選択肢があることを丁寧に説明してくれた。注射には痛みや費用、リスクが伴うことも包み隠さず話してくれた。正直、怖かった。でも、娘の絵が頭をよぎる。「やれることは、全部やりたいんです」。私はそう言って、内服薬とミノキシジル注射の併用治療を決意した。初めて注射を受けた日、チクッとした痛みが頭皮に走った。でも、それは私が長年抱えてきた心の痛みに比べれば、何でもなかった。施術後、少し頭皮がジンジンしたが、すぐに治まった。それから月に一度の通院が始まった。3ヶ月が過ぎた頃、初期脱毛で一時的に抜け毛が増え、不安に襲われた。しかし、半年が経ったある日、風呂上がりに鏡を見ると、生え際に黒々とした短い毛が、まるで雨上がりの筍のように生えていることに気づいた。まだ頼りない産毛だが、それは確かな生命の息吹だった。治療はまだ道半ばだ。でも、私はもう鏡を見るのが怖くない。ミノキシジル注射は、私の失われた髪だけでなく、父親としての自信を取り戻すための、大きな一歩となったのだ。