「ミノキシジル注射を受ければ、薄毛は完全に治りますか?」これは、カウンセリングの現場で非常によく聞かれる質問です。この問いに正確に答えるためには、まず「治る」という言葉の意味と、男性の薄毛の主な原因である「AGA(男性型脱毛症)」の性質を正しく理解する必要があります。結論から言うと、現在の医療では、AGAを「完治」させる、つまり、治療をやめても二度と薄毛が進行しない状態にすることはできません。AGAは、遺伝や男性ホルモンの影響によって引き起こされる、進行性の疾患です。風邪のように、薬を飲めばウイルスが消えて治る、という類のものではありません。ミノキシジル注射をはじめとするAGA治療の目的は、この進行を食い止め、失われた髪の毛を回復させ、その状態を「維持」することにあります。ミノキシジル注射は、毛根に直接働きかけることで、強力に発毛を促し、髪を太く成長させます。その効果は、他の治療法に比べて高いと期待されています。しかし、それはあくまで、薬剤の力が働いている間だけの話です。もし治療を中断すれば、AGAの進行を抑えていた力がなくなり、再び男性ホルモンの影響によってヘアサイクルが乱れ、髪は時間をかけて元の薄い状態に戻っていってしまう可能性が高いのです。これは、ミノキシジル注射に限らず、内服薬や外用薬など、全てのAGA治療に共通して言えることです。また、注射の効果にも限界があります。すでに毛根の細胞が完全に死滅してしまい、長年つるつるの状態が続いている場所に、新たな髪を生やすことは極めて困難です。効果が期待できるのは、まだ毛根が生き残っている場所、つまり、細く弱々しい産毛が生えているような場所です。ミノキシジル注射は、AGAを完治させる魔法の治療ではありません。しかし、進行を食い止め、見た目を大きく改善させるための、非常に有効な「対症療法」です。治療を受ける際は、この現実を理解し、長期的に付き合っていく覚悟を持つことが重要になります。
ミノキシジル注射はAGAを完治させるのか