ミノキシジルを服用するとなぜ頭の毛だけでなく関係のない腕や背中の毛まで濃くなってしまうのかその不思議な現象の裏側には人体の血管網と細胞シグナルの精巧なメカニズムが隠されています。ミノキシジルが体内に入ると肝臓にある酵素によって硫酸転移反応を受けミノキシジルサルフェートという活性体に変化しますがこの物質はATP感受性カリウムチャネルという細胞膜のゲートを開く鍵のような役割を果たしています。このゲートが開くと血管の平滑筋細胞が弛緩して血管が拡張し血流が劇的に改善されるわけですが血液は全身を循環しているためこの作用は頭皮だけに留まることはなく指先から足先まで全身の毛細血管に及びます。血流が増加すると毛根にある毛乳頭細胞には酸素や栄養がたっぷりと届けられるようになりこれが休止期にあった毛母細胞を叩き起こして細胞分裂を促すわけですが同時にミノキシジルは毛乳頭細胞に働きかけてVEGF(血管内皮細胞増殖因子)やFGF7(線維芽細胞増殖因子7)そしてIGF1(インスリン様成長因子1)といった強力な発毛シグナルを出させるスイッチを押してしまいます。問題なのはこれらの成長因子が特定の部位だけでなく全身の毛包受容体に作用してしまうことであり本来であれば産毛のままで一生を終えるはずだった毛包が強力な成長シグナルを受け取ることで太く長い硬毛へと変貌を遂げてしまうのです。特にIGF1は毛の成長期を維持する働きが強いため一度成長し始めた毛がなかなか抜け落ちずに伸び続けることになり結果として全身が毛深くなったような印象を与えることになります。興味深いことにこの反応には個人差があり頭髪にはあまり効かないのに体毛ばかり濃くなる人もいればその逆の人もいますがこれは身体の部位によってミノキシジルを活性化する酵素の活性度や受容体の感度が異なるためだと考えられています。このように多毛症は副作用というネガティブな言葉で片付けられがちですが生物学的な視点で見れば薬が正常に吸収され細胞レベルで機能していることの証明でもあり生命力の活性化とも言える現象なのです。