ヘアサイクルという髪の一生をコントロールしているのは頭皮の奥深くに存在する毛包という小さな器官でありその中心で指揮を執る毛乳頭細胞と実働部隊である毛母細胞の連携プレーによって髪は作られています。毛乳頭細胞は毛球の底部に位置し毛細血管から運ばれてきた酸素や栄養を受け取るとともに様々な成長因子シグナルを放出してヘアサイクルの切り替えを指示する司令塔のような役割を果たしています。成長期にはこの毛乳頭細胞から「髪を作れ」というGOサイン(FGF-7やIGF-1などの成長因子)が出されそれを受け取った毛母細胞が活発に細胞分裂を繰り返して角化し髪の毛となって頭皮の外へと押し出されていきます。毛母細胞は人体の中でも骨髄細胞に次いで分裂速度が速いと言われるほどエネルギッシュな細胞でありその活動を支えるためには大量のエネルギーと材料が必要となるため血流の状態が髪の成長に直結するのです。しかし何らかの原因で司令塔である毛乳頭細胞が「成長を止めろ」というSTOPサイン(FGF-5やTGF-βなど)を出すと毛母細胞は分裂を停止しアポトーシス(細胞死)を起こして退行期へと移行してしまいます。AGAなどの脱毛症はこのシグナルバランスが崩れSTOPサインが過剰に出ている状態と言えます。また最近の研究では毛包幹細胞という細胞の供給源がバルジ領域という場所に存在しそこから新しい毛母細胞が供給されることで次のヘアサイクルが始まることが解明されておりこの幹細胞が枯渇したり機能不全に陥ったりすることが加齢による薄毛や白髪の根本原因であると考えられています。つまりヘアサイクルとは単なる時間の経過ではなく細胞間で行われる精緻なシグナル伝達と細胞分裂のドラマでありこのミクロな世界の営みを守り活性化させることこそが育毛ケアの本質であると言えるでしょう。最新の再生医療や育毛剤の研究もいかにしてこの細胞間の連携を正常化し幹細胞の若さを保つかという点に注力しており今後の技術革新に大きな期待が寄せられています。