プロペシアがなぜAGA(男性型脱毛症)に効くのかを理解するためにはまず敵であるAGAがどのようにして髪を奪っていくのかそのメカニズムを分子レベルで知る必要があります。AGAは遺伝やホルモンバランスが大きく関与する進行性の脱毛症でありその主犯格となるのがジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれる悪玉男性ホルモンです。男性ホルモンの代表格であるテストステロン自体は筋肉や骨格を作り男らしさを形成する重要なホルモンであり直接髪を抜けさせるわけではありませんが頭皮の前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞に多く存在する「II型5αリダクターゼ」という還元酵素と出会うことでテストステロンはDHTへと変換されてしまいます。このDHTが毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)と結合すると細胞核内で遺伝子のスイッチが切り替わりTGF-βやDKK-1といった脱毛因子が放出されます。これらの脱毛因子は毛母細胞に対して「細胞分裂を止めろ」「アポトーシス(細胞死)しろ」という強力な指令を出し通常であれば二年から六年続くはずの髪の成長期をわずか数ヶ月から一年程度にまで強制的に短縮させてしまいます。その結果髪は十分に太く長く育つ前に成長を止めて抜け落ちてしまい毛包は徐々にミニチュア化して最終的には産毛しか生えない状態になってしまうのです。ここでプロペシアの有効成分フィナステリドが登場します。フィナステリドはこの諸悪の根源であるII型5αリダクターゼの働きを選択的に阻害する作用を持っておりテストステロンがDHTに変換されるのを防ぐことで脱毛因子の発生そのものを食い止めます。つまりプロペシアは髪を生やす薬というよりは「抜け毛の原因物質を作らせない薬」でありヘアサイクルを正常な状態に戻すことで髪が本来の寿命を全うできるように守る「守りの治療薬」としての役割を果たしているのです。この作用機序は非常に理にかなっており臨床試験でも九十パーセント以上の患者で抜け毛の進行抑制効果が認められていますが一度死滅してしまった毛根を蘇らせる力はないため毛根が生きているうちに早期に治療を開始することが重要であり継続して服用することで初めて効果が維持されるという特性を持っています。
AGAのメカニズムとプロペシアの作用機序